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天に近い場所
加納旬 高等部 3年生 女子
(献上品を黙って受け入れる)
ふむ……トライガンはボクの飼犬じゃない。
行政の野犬狩りに捕まりそうだった子犬を、ボクが首輪をつけてやって、山に持ってきた。今じゃカラスや魚を獲ることもできる野生の獣だよ。
寒い日には塒を共有する、そういう仲だ。旅の空では、いい寝床にもなるしね。
(天文台の居住域は塵ひとつないほど掃除されていて、くずかごに商品ラベルや包装紙などが丸めて入ってる。台所と思しき場所に、ガスカートリッジやコッヘルやライター、飲料水の詰まったポリタンクが整然と並べられている)
(すでに天体望遠鏡はない。閉じられたドームの床に一人用テントが設置され、その中は銀に輝くシートに、マットが敷かれ、雪山用のシェラフが口を開けている。枕元には懐中電灯と携帯ラジオ)
(体にフィットするソファは旬の体の形に凹んでおり、壁際に文庫本がつみあげられて、ランタンは今は沈黙している)
(外には、錆を落として磨き上げられたドラム缶が、妙な重量感を放って鎮座する)
こんな所まで、ボクのことを知りたくて来たのか。
修行とかオリエンテーリングとか理由もつけずに、ただ女に会いに来たわけだね、君は。
やっぱり何もわかってない。
(接近)
(呼吸が聞こえるほど肉迫。口を彼の耳元まで下ろす)
汗のにおいがする……。
(左手で有賀の肩をつかむ)
(トライガンの目が、旬の右手に抓まれた何かを見ている)
[本体:リュー]
9/29 06:30