魔法少女リリカルなのはA's VerH −宵闇の小夜曲−



 ヴィータは思いの外、ご機嫌だった。
 はやてと共にあることは、勿論ある。
「すげーっ。ボンキュッボンだ!」
 ユニゾンにより、二十歳相当となったはやてのデコボコした体型にご満悦なのだ。何より、それを自由気ままに触ることが出来る。
(ちょっ、ヴィータ! 恥ずかしい真似はヤメ〜〜)
 視覚を共有出来ている関係上、自分の手が自らの胸を弄っているのに自由が利かないという、非常に卑猥極まりない光景に、はやては恥ずかしそうに咎めの声を上げてみせた。聖祥大附属のおっぱい魔人などという、不名誉な通り名を冠する彼女が。である。
(いいジャン別に。減るもんじゃないんだし。おお〜胸なんかフッカフカのポインポインだ〜♪)
 まるで気にした風でもなく、両の手でその感触を確かめるユニゾンヴィータである。
 寄せてあげて、手のひらで桃を掴むようにやさしく包み込み、揉んでみる。
 ムニムニと手のひら全体に感じられる感触は、まるでゴム毬のようで、張りのあるきれいなお椀型であることが容易にわかる。つまりは最上級の美乳だ!
(ヴィ〜タ〜ァ)
 感覚は一切、切り離されているのだが、その手の動き方は富にいやらしく映る。はやては痴漢の被害にあったような気分になってきた。だから羞恥で真っ赤になるし、ヴィータを叱る声にも覇気がない。
 一方、ヴィータは幼生固定されるよう設定されたプログラム体だ。したがって、このような体付きになることはないと断言できる(はやてがその設定を書き換えれば、あるいは増減可能かもしれない)。将来そうなるだろうはやての体型とはいえ、羨ましいと思うのは、彼女も女性だと言う証だろう。
(・・でもリーダーの方がデッカ・・・)
(ヴィータッ!)
 一言、余計だった。
 なぜか体の自由が一時的にはやてに戻り、右の鉄拳ぐーが後頭部にクリーンヒット。快音が響いた。しかし痛覚はヴィータに渡ったままだったらしく、直後、頭を抱えてうずくまるユニゾンヴィータの姿がある(なんという都合のよさだろう)。
「・・痛ひ・・・」
(痛なるようにしたんや! ばか!)
 ズキズキと痛む後頭部をさすりながら、ヴィータはシュンとうな垂れた。だが想起されるは反省のそれではない。
 彼女は見ていたのだ。時々、はやてが取り込んだ洗濯物の中からシグナムの下着を取り上げては、自らの胸に当て、意気消沈しつつ落胆の溜息を小さく吐き出すのを。
 そりゃもー家政婦のようにしっかりと。えーもーバッチリと!
(平気だよはやて。ちっさくても形の良さじゃ、リーダーに勝っ・・・)
(向こう一ヶ月、夕食後のアイス厳禁ッ!)
 みなまで言わせず、伝家の宝刀(ラグナロク級)が炸裂した。
(おぎゃーっ! なんでもない! なんでもないからそれだけは勘弁してよはやてーっ!)
 変な悲鳴を上げるや、ヴィータははやてに全力全開で泣きを入れて、懇願に入った。
 が、
(駄目っ!)
 たった一言で、一刀両断されてしまった。
(は〜や〜て〜〜〜〜〜〜っっ!)
 ヴィータの脳裏に、『口は災いの元』という諺が浮かんだのは言うまでもない。

 閑話休題!

 ユニゾンシグナムは、はやての純白の騎士甲冑をそのままに纏っていた。
 対してユニゾンヴィータのそれは、真紅である。
 朱色をした長い髪は、三つ編みを解いたクセッ毛そのままにウェーブが掛かり、同じ顔立ちのユニゾンシグナムとは、趣きを異にしている。
 趣きと言えば、手にする得物一つとっても、心象が大きく変わってくる。
 幅広の大剣を携えて、夕闇に染まる平原の元、風に吹かれるにまかせてたたずめば、ユニゾンシグナムは伝説の女神ワルキューレの如く、絵になること請け合いだ。
 しかし一方、ユニゾンヴィータが手にする剣十字の杖は、彼女の容姿と相まって、見る者を震え上がらせるに十分なデザインとなっていた。
 剣十字の意匠を柄尻に据えたそれは、杖の本体部分が八角錐状に変形しており、所々に親指の先程度の突起物が、いくつも飛び出していたのである。
 それはつまり、『鬼の金棒』そのままのデザインだ。
 振り回せばグラーフ・アイゼン同様、鉄槌として扱える上に、金棒の突起部分を切り離せば、シュワルベ・フリーゲンなどの弾核としても利用できる。如何にもユニゾンヴィータにうってつけの得物だったのだ。
 だが、ユニゾンヴィータの出で立ちと、金棒のセットとなれば、それはつまり、
(まんま赤鬼さんやね♪)
「言わないでよ、はやてぇ」
 それがわかっているのか、ユニゾンヴィータは辟易とした表情を浮かべてみせるのだ。
 方や壁画や油絵などのモチーフになり得る雄々しい出で立ちだというのに、この差は何だというのか? 勿論、はやてのイメージが十分に反映されている可能性も考えられたので、ヴィータは声を大にして文句を言うことが出来ないでいる。
「面白くねーなぁ・・・」
 結果、フラストレーションが溜まり始めたようである。
 クソ! このイライラはあいつがどっかに隠れてるのがイケねーんだ! そうだそうに決まってる! 決定!
「ってなわけで、デカイの行くぜ! デアボリック・エミッション!」
 直情型の爆弾娘は、その場のノリで行動し始めた。
 もちろんはやては、一度は引き留めようと考えもした。が、相手は目下の地上世界に紛れて姿を隠している。燻りだすには、それしかないように思えたのだ。
(詠唱こっちに回しぃ。狙いはヴィータに任せる。しっかりな!)
「! おぅ!」
 ユニゾンヴィータがニッと口の端をあげて笑う。と、開いた口に隙間から八重歯がキラリと光った。
 金棒と腕を一直線に掲げたその先に、黒い澱みのようなモノが形作られていく。澱みはわずかな時間の間にその大きさを拡大していく。デアボリック・エミッションの術式が構築され、必要な魔力を充填していくその様は、墨で作ったシャボン玉そのままに、黒くも禍々しい雰囲気をもった、怪しげな球体に育っていく。
 そしてそれが一定の大きさに達したとき、
(詠唱完了。いつでもえーで、ヴィータ!)
「おっしゃ! 覚悟しろヴェア・シュランゲ! 『闇に、沈め』!」
 クンッと、金棒が撥ね上がった。
 次の瞬間、黒い球体は地鳴りのような音とともに、爆発的な勢いでその直径を拡げ始め、十秒と掛からず封鎖結界いっぱいに広がっていった。
 魔法障壁やバリアに限定して効果を発揮するようセッティングされたデアボリック・エミッションのエネルギーは、封鎖結界の中を津波のようにして駆け巡った。
 そんな状況である。ゼラフィリスが自身の体を修復するために展開したバリアは、水面に浮かぶ木の葉の様に、縦横無尽に揉まれることとなったのだ。そしてバリアは紙風船のように簡単に吹き飛ばされ、彼女の位置はヴィータの知るところとなったのである。
「! 見つけた! 大人しく縛につきやがれ! ヴェア・シュランゲ!」
《Wespe Greifen Angrif!》
 金棒に仕込まれていた突起、全てが遊離。その数四十近く。それ全てが弾核である。
 ただでさえ凶悪だったスズメバチが、更に輪をかけて凶悪な力を得て、一斉に、撃ち放たれた。

    ◇

「・・なんだこりゃ? いったい、いつからここは学芸会の会場になったんだぁ?」
 やや間延びした男の声が、ニルヴァーナのブリッジ、シモーネの艦長席の近くで上がった。
 ブリッジには、第一、第五象限での戦闘の模様が映し出されていた。どちらも、ヴォルケンリッター優勢と見て取れ、そのままに推移している。
 それを学芸会呼ばわりするとは、一体何者だ?
 と、目じりを吊り上げ、声の主を睨みつけるような人間は、ニルヴァーナのブリッジクルー内には存在しなかった。いや、そのような人間が存在するのならば、お前は一体どこの部外者だ? ということになる。
 男は、名をマクシミリアン・アンベールといった。中肉中背で、締まった体は中年太りとは無縁そう。やや鰓ばった四角い顔に整髪剤でオールバックにまとめる髪は、黒が六で白が四といった感じ。
 時空管理局特別捜査部所属、特別捜査官。
 八神はやての直属上司にして、監督官でもある彼は、ニルヴァーナを常艦とはしていないものの、ちょくちょく顔を出す程度には寄り付く存在である。立場上と言うものもあるのだろうが、いわゆるうるさ型で、なんでもそつなくこなすはやてを目の敵にして、難癖つけるのを半ば趣味としているよう男である。しかも歳が歳(五十目前らしい)だけに、女性クルーに対してセクハラ紛いの発言はのべつ幕無しで、別の意味で顔を覚えられているのである。そのセクハラはシモーネは言うに及ばず、はやてやヴォルケンリッターにまで及んでいる。
「なんだ八神。まだ小さいままか? もっと飯食え飯! お前ぐらいの歳だったら、もう少しタッパも胸周りもあったってバチは当たらんぞ?」
 始終こんな感じである(シグ&シャへの内容は、お下劣過ぎるので検閲削除)。局内で寄り付いてほしくない人物ランキング、断トツ上位なのは言うまでもない。
 しかしそのような理由で、彼をぞんざいに扱うわけにはいかない。何せ、これでも広域捜査権を有する特A級のライセンスを所持する敏腕捜査官なのだ。
 だからシモーネは殊更驚いた風な顔をつくり、艦長席から立ち上がって、彼を出迎えてみせたのである。
「アンベール捜査官。どうしてこちらに? 確か、別件でクラナガンに常駐していたはずでは?」
 言外に、「ずっとクラナガンに釘付けになってればいいのに!」という嫌味を込められたそれは、馬耳東風と、見事なまでに華麗に受け流された。
「・・上司が部下の働き具合を見にきちゃいけないなんて決まり、なかんべよ?」
 何が面白いのかわからないが、アンベールは「がっはっは!」とデカイ声で笑ってみせた。しかしお追従があるわけもない。あるのはブリッジの電子機器の廃熱用ファンや空調設備の低く唸る音ばかりのみだ。流石のシモーネも、どう返したらいいのかわからないといった感じで、眉尻を下げている。
 そのあまりの白けぶりに、言った本人が面白くなさそうな顔を作って、
 ・・もう少し愛想良くたってバチはあたんねーだろーに。
 とかなんとかブツクサ小声で文句を言い放ち、後頭部を右手でガシガシ引っかいた。
 しかしそれもほんの一瞬だ。視線を再度、空間ディスプレイの方へと移すと、顎でしゃくってみせた。
「途中経過、来る道中で見させてもらったけどよ。二つの現場に二人、人員割いたのは失敗・・だよね。片方は諦めて、もう片方で連中のどっちかを拘束するよう、仕掛けた方が好かったんじゃない?」
 痛いところをついてくる。
 シモーネは苦々しい気持ちになった。確かにその考えは行動初期段階から考慮に入れていた事柄だ。しかしヴォルケンリッター両名の心情を鑑みした結果、戦力を割くことをシモーネは承認したのである。
 そして目の前のうだつの上がらない男が、先程はやてたちの戦闘を『学芸会』と称したのも、ようやく合点がいったのである。
 戦力を分散配置した上、はやてという切り札を、実力の半分も発揮できない状態にして現場に投入。しかも挙句の果てが『ユニゾン』である。
 いったいどこの英雄譚だ? まるで子供向けの創作喜劇じゃないか。
 そう評されても仕方がない。が、今となっては後の祭りである。確かに今、現場の趨勢はこちらに傾いている。このまま、事態は終息に向かうだろう。しかし指揮する者の立場から見れば、決して諸手をあげて喜べるものではなかったのだ。終わりよければ全てよし。とできないのが管理職のツライ所なのだ。
「ま、ヴォルケンの連中の気性からすれば、当然の采配だわな。個人としてはそれは十分に理解できるよ。だが、組織の上の立場からしてみれば、戦力の分断は戦術的、戦略的に見てもいただけない。・・俺の言ってること、間違ってる?」
「・・いえ。明らかに私の判断ミスです。・・申し訳ありません・・・」
 特別捜査官は、執務官と同等の権威を有しているが、それでもなお提督位にある者が頭を下げる理由にはならない。
 しかし目の前の男からは、そうさせるに十分な迫力と、威圧感があったのだ。それは、現場に三十年以上張り付き、コツコツと、そして確実に、その身に刻みつけてきた年季によるものである。伊達や酔狂で、裏社会の幇(バン)の荒くれどもや、マフィアの刺客、シンジケートの殺し屋を相手に生き伸びてきたわけではないということなのだろう(流石、リーゼ姉妹が『体育会系』と呼ぶだけの事はある)。
 しかしシモーネが事の外、素直に謝罪の言葉を口にしたためか、アンベールは毒気を抜かれたように、態度を軟化してみせたのである。
「・・まあ、過ぎちまったことをあげつらったって何にもなりゃしないし、終わりよければ全て良しってことで・・この話はこれで手打ちね。うん」
 あさって方向に目線を向け、なんだか慌しい態度をとってみせるのは、そこはかとなくシモーネに好意を寄せている関係上、それ以上強く出られないためである。四捨五入で五十男の純情なんて流行るわけでもないのだが、彼はそれなりに大真面目なのである。「馬鹿らしいことこの上ない」と声を大にして言いたいのだが、不意に「なんか文句あっか?」的な視線をこっちに飛ばしてみせるアンベール君はそれなりに怖い(顎の先に梅干作ってるんだよ? 下手なヤンキーより怖いさ)ので、この話は終わりにしようと思う。うん。すまんかった。謝る。ゴメンナサイ。

 不思議そうに首を傾げてみせているシモーネに気が付いたアンベールは、はたとして、
「・・って、なんの話だったっけ? ああ、そうだそうだ。なんで俺がここにいるのかって話だよな」
 ワタワタと体裁を取り繕った彼は、ああっとばかりに握った右手で、左の掌に打ちつけ、再度豪快に笑ってみせたのだ。挙動不審も甚だしい。
「二つあるけど、どっちがいい?」
 ニッと、彼は愛嬌があると信じて疑わない、口の端を上げる笑い方をしてみせた。もちろん、世間一般的にはそれとは正反対の評価を受けているのは言うまでもない。
 彼が言う二つとは、当然、重大な情報のことである。
 でなければ、クラナガンに張り付いていた彼が、辺境域で特定行動中であるニルヴァーナにまで、わざわざ出向いてくるわけがないのだ。
 シモーネ会いたさにそこまでするには、彼は歳が行き過ぎていたし、彼自身が持つしがらみが、おいそれと許してくれないのだから当然である。
 マクシミリアン・アンベールは、懐中時計を集めるのが好きな男である。これまでに手にした給料の半分以上は、これに消費されていると言っても過言ではないらしい。そして蒐集されたアンティーク手巻き式の中で、一番価値のあるものは、彼の年給に匹敵するほど、値打ちがあるらしかった。
 そしてその趣味は、自らが持つデバイスの待機形態にまで及んでいるのだから、どれほどの入れ込んでいるのか、容易にわかろうというものである。
「ピラーホイール」
 実際にアンティークのクロノグラフに組み込まれている歯車と同じ名を冠したデバイスは、主の命に答えて、二枚のはがき大のデータカードを、内部のストレージ空間から排出してみせた。
 目の前に浮かぶデータカードを見つめながら、シモーネは首を傾げた。
「どちら・・とは? 普通なら、良い方、悪い方って聞き方をしませんか?」
 彼女の疑問も尤もだ。
 優劣付け難い内容だとするなら、どちらも良かったりするのだろうか? しかしちょっとまともに考えれば、それは無いと知れる。どちらも良い内容なら、わざわざアンベールがここまで出張ってくるわけが無いからだ。
 アンベールは、そんな彼女の疑問に然り顔で応えるのだった。
「どちらも面倒くさくて気が滅入る内容ってことでね。出来るんなら、このままケツ捲くって帰りたいところさ」
 ピラーホイールを内懐に収めつつ、アンベールはデータカード越しにシモーネをまっすぐに見つめ返した。しかしそんな目線の先に立つ女性は、二枚のデータカードに焦点を結んでおり、彼の姿は視界の外にあった。
「・・無限書庫司書長、ユーノ・スクライア氏による署名入り・・・。
 特A級封印処理が掛かったデータカードなんて、この仕事をするようになって、始めて見ましたわ」
 どちらのデータカードにも、生ゴムに焼き印を押し付けたような、同じ封印処理が行われているのが見て取れた。印には、意匠がかったY・Sのイニシャルと無限書庫を現すメビウスの輪が刻みこまれている。そして生ゴムの色によって封印処理のレベル分けがなされているわけだが、特A級を現すそれは、透き通った赤だった。
 封印プログラムは、生ゴムの繊維自体に編みこまれているため、正しい手順で解凍処理を行わないと、通常、デートカードはミクロン単位で瓦解し、消滅するように設定されている。特A級ともなれば、あやまって手を触れただけでも、五年は動けない体に出来るほどの電撃を発するような危ない代物だ。
 だからシモーネは、無意識のうちにゴクリと生唾を飲んでいたのである。そしてその表情は、高揚しているが、まさしく『静かなる微笑のアイアンメイデン』のそれであった。
 そんな彼女を見てしまっては、アンベールの出る幕はそこまでだ。一抹の寂しさを感じながらも、仕事モードに入ってしまった彼女の邪魔などする気は微塵もない彼は、
「『セフィロト』に関する最新の情報と、連中『ゼーレ』に関する情報らしい。セフィロトは目下のところそっちの領分だが、ゼーレの情報と込みって事を考えれば・・しかも特A級の封印処理ってオマケ付とくればもう、十中八九面倒事できまりだ・・・」
 シモーネから視線を外したアンベールは、やれやれとばかりに頭を掻いてみせた。そして彼はブリッジ脇にあるゲストブースに視線を向けたのである。
「特A級の封印処理を、ここで開封する訳にゃいかないだろ?」
 彼の言わんとするところを理解したシモーネは、勿論です。と諒解してみせた。
 クリスに、少しばかり席を外す旨と、状況の変化があったらすぐに連絡を入れることを支持し、シモーネはアンベールと共にゲストブースに向かったのだ。

    ◇

 歌が聞こえる。
 贖罪の歌が。
 神に許しを請う、その歌が。
 ボーイズソプラノの高く澄んだ声で、朗々と。朗々と。

 少年は涙を流す。
 少女への慙愧のために。
 世界を巻き込む大罪を働く自身の罪のために。
 そして夢を実現するための準備が整ったこと喜ぶ、感涙のそれを流すのだ。
「我らが悲願成就のために。
 ニンゲンになるため、セフィロトを我が手に!
 ゼム、ゼラ。
 そしてはやて! 共に唄おう!」
 魔笛のデバイスを携えた少年『ゼロ』は、熱狂的な感情に踊らされるがままに声を張り上げた。

 歌が聞こえる。
 歓喜の歌が。
 この世に生を受けた、御子を讃えるその歌が。
 そして、この世に破壊を招く、終焉のその歌が。
 朗々と。朗々と。



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